ゲーム・チェンジャーの登場が待たれる!

 

CFRP、カーボンは軽量化の切り札」という言葉は過去のものになるかもしれません。

 

※ゲームチェンジャーは、物事の状況や流れを一変させる個人や企業、プロダクト、アイデアのこと。   もともと、野球などのスポーツの試合(ゲーム)で、途中出場して勝負の流れを変えてしまう選手のことをゲームチェンジャー(Game Changer)と呼ぶ。

 

炭素繊維だけが、低比重、高引張強度、高弾性ではありませんが、これまではその性能が突出していたためにCFRP、CFRTPとその需要を広げてきました。

 

炭素繊維の歴史については東レ様のトレカホームページに記されています。

https://www.torayca.com/aboutus/abo_002.html

炭素繊維の発明は、日本の宝ですが、大阪工業技術試験所 進藤昭男博士は最初から「炭素繊維を開発しよう!」と研究が始まったわけではありません。当時、日本の化学繊維産業は海外メーカーの台頭により、商品のコモディティー化を受け、糸へん産業は不況に陥っていました。大阪に本社を置く繊維メーカーの窮地を救うために、化学繊維の新しい出口を探求していた時に、海外の論文で炭素繊維に関する記述を発見し「FRPに使われるガラス繊維と同等以上の性能を得ることができる」と開発に着手され、レイヨンの用途開発として、始まった炭素繊維研究であったが、PAN(ポリアクリルニトリル)が化学繊維の中で、加熱焼結後の炭素繊維としての残留が多いことからPANに絞ってその研究を完成させ、国際特許化されたものです。

 

また、別のページ

https://www.torayca.com/aboutus/abo_001.html には

「PAN系炭素繊維は市販されている炭素繊維の90%以上は、PAN繊維を原料とするPAN系炭素繊維ですが、これは性能とコスト、使い易さなどのバランスがピッチ系炭素繊維に比べて優れているためです。」と記されています。

 

炭素繊維の特長は、何と言っても軽くて強いこと。比重が1.8前後と鉄の7.8に比べて約1/4、アルミの2.7あるいはガラス繊維の2.5と比べても有意に軽い材料です。その上に強度および弾性率に優れ、引張強度を比重で割った比強度が鉄の約10倍、引張弾性率を比重で割った比弾性率が鉄の約7倍と優れています。これが、炭素繊維が従来の金属材料を置き換える軽量化材料として本命視されている理由です。」と紹介されています。

素晴らしい性能です。

ただ、それはユーザーとしては、材料を選ぶ際に大きな問題がありました。

工業デザイン事務所マジックボックスJPは、これまで家電メーカー、自動車会社の表面材料開発を受託してきました。その際に、炭素繊維では避けて通れない問題点に直面して来た経験があり、「だからカーボンは使えない」という場面を何度か経験してきました。それは、電波透過性です。軽量高強度を活かして、CFRP、CFRTPはこれまでパソコンのケースやスマートフォンの一部に使われてきましたが、使えない部分がアンテナ部でした。

「カーボンは軽くて強い新素材」というイメージがつよく、カーボンパターンと呼ばれる3K平織、綾織で織った黒いアラミド繊維等が開発され、海外ブランドの携帯電話に使用されました。電波障害を起こす原因は、炭素は導電性が良いからです。ですから電極に使われたり、電池の負極材に使われたりします。その性質をうまく使うと「電磁波シールド性が優れている」となります。

しかし、電波を頼りにする電子機器のケースに使うには、シールド性は邪魔で、できれば炭素が入っていない炭素繊維はないかと設計者は望みます。それは、いくら飲んでも飲酒運転にならないのど越しさわやかなビールはありませんか?に近い感覚かもしれません。

 

話を巻き戻してみましょう。炭素繊維開発の発端となった「FRPに使われるガラス繊維の代替」となった、ガラス繊維は炭素繊維に「軽量高強度材料」の座を奪われたのでしょうか?

実際のところは、そんなことにはなりませんでした。

ガラス繊維生産量は世界で約550万トン/年、そのうち 450 万トンを一般 FRP 用途が占め,残り約 100 万トンを電子基盤用途が占めています。

それに対して、2019年の炭素繊維の出荷量は24,876トンで過去最大を更新したそうです。炭素繊維の出荷量は、重量比で220分の1(0.45%)、すなわち話にならない程度の「代替」だったわけです。ガラス繊維メーカーにとって、そんな1%にも満たない市場のために新たな技術開発をする理由があったのでしょうか?

 

ありました。それは世の中の産業の軽量化へのニーズの高まりです。

 

ハイテン鋼、さらに薄肉化をはかったスーパーハイテン鋼をリリースし、自動車産業の一次構造材で君臨してきた鉄鋼メーカーまでもが、マルチ・マテリアル化の名の元、複合材料研究を本格化させてきました。それは、ボンネットやルーフのCFRP化、ボディーパネルやリアゲート等、次々に樹脂化が進みました。ガラスが当たり前のフロントウインドーまでもが、比重の軽いポリカーボネイト製のスポーツカーが型式認定を受けました。ユーザー側である自動車メーカーや家電メーカーも必死です。CO2排出量制限にともなう電動化技術、百年に一度といわれる大きなモノづくり改革の真っただ中にあり、経営統合や技術アライアンスを組み、地球温暖化抑制というプレッシャーに立ち向かっています。軽くて、強くて、製造時CO2排出量が少ない材料を使っていないとペナルティが課せられる時代です。

 

今後の未来予測をすれば、5G、6Gと無線電波、無線電力伝送技術へと移行は必至です。軽量化の波は、鋼板よりも比重の軽い樹脂にもさらに薄肉化を求めます。

そんな未来で必要なのは、「炭素繊維のような」高弾性、高引張強度の、しかも導電性のない強化繊維で構成するFRPとなると結論付けられます。

 

さて、そんな「非炭素系高弾性繊維」って…あるの?